商船三井ケニア社
2025年11月12日

港からハブへ:モンバサに見る東アフリカ物流

     ケニアのモンバサ港は、インド洋に面する東アフリカの代表的な港湾都市であり、同地域の物流と貿易の要となっている。ウガンダ、ルワンダ、南スーダン、ブルンジ、コンゴ(DRC)など、内陸の複数の国がこの港を経由して輸出入を行っており、モンバサは依然として東アフリカ経済の起点であり続けている。ケニア港湾庁(KPA)の2024年統計によると、貨物取扱量は約4,100万トン、コンテナベースで200万TEUに達し、前年(2023年)からそれぞれ約15%、約23%増加した。
このコンテナ取扱量は、日本で第5位の港湾である大阪港(約201万TEU)とほぼ同水準であり、モンバサ港が東アフリカ域内で圧倒的な存在感を持つことを示している。

ケニア・モンバサ港のコンテナターミナル全景。大型の青いガントリークレーンが貨物船の積み下ろしを行い、岸壁には色とりどりのコンテナが積み上げられている。晴天のもと撮影。

ただし、モンバサ港の重要性は単に貨物量の多さにとどまらない。現在注目されているのは、港を起点に広がる輸送・産業・政策の連動構造である。その中心にあるのが、2017年に開通した標準軌鉄道(Standard Gauge Railway)、通称SGRだ。モンバサからナイロビ、さらにナイバシャまでを結ぶこの鉄道は、従来10時間以上かかっていたトラック輸送や従来のメーターゲージ鉄道(Meter Gauge Railway)で12~24時間以上かかっていたものを 8時間前後に短縮し、より安定した輸送スケジュールを実現している(ケニア鉄道公社報告)。渋滞や事故、ドライバー不足といった課題も、鉄道貨物の拡充によって徐々に緩和されている。

ナイロビ近郊のICD(内陸コンテナデポ)は、この鉄道網の延長線上にある重要なノードとなった。通関、保管、再配送が一体化された施設で、貨物の動線を大きく変えた。 モンバサ港での貨物揚げは依然として主流だが、ナイロビやナイバシャ周辺の倉庫も輸送ネットワークの一部として確立されており、港湾機能を補完する形で物流オペレーションが分散化している。

TradeMark Africaの報告によれば、ナイロビICDを経由する貨物量は年々増加傾向にある。2025年上期に実施した現地ヒアリングでは、ナイロビICDの年間取扱量が40万TEUを超えているとの話を聞いた。鉄道輸送を基盤とした内陸物流が着実に定着し、モンバサ港との接続が実質的に機能していることを示す数字といえる。尚、商船三井ロジスティクスは2023年からこのナイロビICDのすぐそばで倉庫を運営している(以下プレスリリースご参照)。
「ケニア・ナイロビにて物流ジャパンデスクの設置と倉庫運営を開始 ~アフリカでの物流サービスを強化~」

また、2015年に制度化された特別経済区(SEZ)は、こうした物流インフラの変化を産業政策の面から支える存在だ。 モンバサ近郊のドンゴクンドゥSEZ(Dongo Kundu SEZ)は、JICA(国際協力機構)がケニア政府と協力して開発を進めており、港湾アクセス道路、電力、水道、情報通信などの基盤整備が段階的に進行している。現在はLPG事業のタイファガス(Taifa Gas)が操業に向けて工場建設を開始しており、他の製造・貿易関連企業の進出も見込まれている。同SEZは完成後、港湾と一体で機能する産業エリアとして、製造・加工・再輸出を一体的に行える構想だ(Kenya Investment Authority資料)。こうしたインフラと制度の連動は、港を単なる「物流拠点」から価値を生み出す地域ハブへと変えつつある。

ケニアが貨物が通過するだけの場所から、製造・加工・再輸出を行う経済圏へと拡張する中で、企業が関与するポイントも変わりつつある。輸送効率の改善だけでなく、ナイロビICDやSEZを組み合わせた複層的なロジスティクス戦略が求められているのだ。

モンバサ港の産業エリアを上空から撮影した写真。青い屋根の倉庫、停泊中の貨物船、パイプライン、そして内陸部へと続く輸送インフラが見える。

最近では、欧州やアジアの物流会社だけでなく、アフリカ域内のプレイヤーもモンバサ周辺の機会に目を向け始めている。ウガンダ企業がナイロビでハブ拠点を設け、そこから自国に貨物を転送するような事例も増えてきた。ローカル企業と外資企業が、同じ構造の中で競争と協業を始めているのだ。港、鉄道、経済区という三つの要素が、個別にではなく、相互に連動して投資判断に影響する。港だけを見ていても、答えは出ない。輸送コストを試算するだけでも不十分。今モンバサを見るということは、ケニアの制度とインフラ、そして広域市場との接続性を見ることを意味している。

すでに港としての優位性はある。それに物流網と制度が加わったとき、モンバサは他国の港湾都市とは比較にならないリージョナル・ロジスティクス・ハブとしての顔を持ち始めている。

参考情報

本記事で取り上げたドンゴクンドゥSEZでは、商船三井グループも現地拠点の設立を計画しています。 2024年1月、株式会社商船三井およびグループ会社の商船三井ロジスティクス株式会社は、ケニアの大手医療用品メーカー Revital Healthcare (EPZ) Limited と、モンバサ経済特区(SEZ)における医療用品・医薬品の物流センター建設に向けた戦略的提携に関する覚書を締結しました。 このプロジェクトは、モンバサ港を中心とした東アフリカ域内のサプライチェーン強化を目的としており、製造と物流を一体化した新しい産業連携モデルとして期待されています。
URL: 「プレスリリース」ケニアの医療用品製造大手Revital Healthcareと戦略的提携に向けた覚書を締結 | MOL Africa


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