東アフリカを訪れたことがある人なら、おそらく一度は目にしているはず――街中を縦横無尽に走るバイクタクシー、通称「ボダボダ」。ケニア、ウガンダ、タンザニアなどで広く使われており、都市部だけでなく地方でも欠かせない移動・配送手段です。一見カオスに見えるこのシステム、実は地域ロジスティクスの最前線とも言えます。

ボダボダは、小回りが利き、交通渋滞を回避できるため、eコマースや食品デリバリーの即時対応に理想的。JumiaやGlovoといったプラットフォームは、ボダボダドライバーを物流ネットワークの“末端の力”として重用しています。特にインフォーマル経済が主流なエリアでは、柔軟性とスピードが最大の強みです。
こうした現場に対し、日本企業も本格的に取り組みを進めています。たとえば、ヤマハ発動機グループの事業会社「CourieMate」は、配送事業者向けに業務用バイクのリース、メンテナンス、トレーニング、稼働管理をワンストップで提供。ケニアを中心に展開し、ボダボダ業界のプロフェッショナリズムを底上げしています。現地ニーズに寄り添いながら、より信頼性の高い配送基盤の構築に貢献している点は、他国企業との差別化ポイントとも言えるでしょう。
一方で、ボダボダを活用した配送には、商品代金の回収にまつわる複雑な課題も付きまといます。たとえば、現地では依然として現金払いが主流で、配達先での不在や支払い拒否、金額交渉といったトラブルが発生するケースも少なくありません。加えて、現金を扱うバイカー側の管理リスクも避けられず、報告漏れや着服といった問題が発生する余地があります。
こうした状況を避けるために、配達員を自社で雇用し、運用管理を厳密にする取り組みも出てきていますが、現金の回収・確認・精算作業にかかる運用コストは依然として高く、完全な解決には至っていません。また、全額前払い制に切り替えた場合、特に新規顧客や少額注文に対する心理的ハードルが高く、注文離れを招くリスクも指摘されています。
現金取引と信頼構築が密接に結びついているこの地域特有の商習慣を前提とすれば、モバイルマネーの活用や、配送・決済フロー全体の再設計といった、より構造的なアプローチが今後求められていくでしょう。
都市インフラが未整備な地域において、「バイク一台」から始まるロジスティクス。それは、東アフリカにおけるビジネス機会と社会課題の交差点を象徴する存在でもあるのです。