商船三井ケニア社
2025年4月30日

商船三井、ケニアからロジスティクスで東アフリカ攻める

     ケニア国家統計局(KNBS)によると、ケニアの2023年の総人口は5,150万人で、2045年には7,020万人に増加する予測だ(2025年1月28日付ビジネス短信参照)。しかし、「アフリカの巨人」と呼ばれる西アフリカのナイジェリアは既に2億人を超えている。また、IMFによると、ケニアの2024年1人当たりGDPは2,220ドルなのに対し、エジプトは3,540ドル、南アフリカ共和国(南ア)は6,380ドルだ。経済規模の数字だけみると、アフリカの中にケニアを上回る国はいくつもあるが、ケニアは日系企業が最も注目する国の1つだ。

ジェトロが実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査アフリカ編」では、回答したアフリカに進出する日系企業197社のうち41.6%がケニアを「注目国」として選び、最多だった。ケニアが注目されている理由はさまざまだが、「東アフリカのビジネスハブ」としての期待について言及する回答が多い。

商船三井グループは、ケニアの首都ナイロビに拠点を置き、2023年に倉庫業を開始した。商船三井東アフリカ代表を務める大山幹雄氏(写真左)と商船三井ロジスティクスナイロビ支店ビジネス・ディベロップメント・マネージャーの新保恵太氏(写真右)に、ケニアを拠点とした東アフリカビジネスの現状とヘルスケア物流について話を聞いた(取材日:2025年3月17日)。

物流倉庫内で、スタッフと現地スタッフが並んで記念撮影している様子。 インタビュー対応者と、商船三井ロジスティクスナイロビ支店のカントリーヘッドの スリーニヴァーサン・スリカーンス氏(右2番目)とウェアハウスオペレーションマネージャーの アサニョー・ジャスティン氏(左2番目)(ジェトロ撮影)

質問: アフリカでの取り組みは
答え:商船三井グループ全体としてのアフリカでの歴史は古く、1929年にケニアのモンバサに拠点を設置したのが始まりだ。その後、戦争などの影響で一時はビジネスを中断していたが、商船三井のケニア現地法人を2022年に再開し、2029年にはアフリカ事業100周年を迎える。アフリカではケニアのほか、南アフリカやモーリシャス、モザンビークにも拠点を設置している。アルジェリアやセネガル、ガーナ、赤道ギニアなどでは、拠点の設置はないがビジネスがある。自動車産業が発達している南アフリカでは自動車船、モザンビークではLNG(液化天然ガス)船や発電船、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)、といったように、地域のニーズと事業戦略に沿って異なる事業に注力している。ケニアではロジスティクスに力を入れている。現在、商船三井の現地法人であるエムオーエルシッピングケニア(MOL Shipping(Kenya)Limited)と、商船三井グループの物流事業会社である商船三井ロジスティクスのナイロビ支店(MOL Logistics Holdings(Europe)B.V. Nairobi Branch)を設置している。

このナイロビ支店は2017年に登記後、2023年に倉庫業をスタートさせた。

質問: ケニアでの取り組みについて。
答え:首都ナイロビにあるビジネスパークの中で倉庫オペレーションをしている。場所はジョモ・ケニヤッタ国際空港と標準軌鉄道(SGR)の内陸コンテナデポの近くで、800平方メートルの倉庫2棟を運営している。取り扱っているパレットの量は1,300枚で、主な顧客は食品や日用品、医薬品などを取り扱う輸入卸売企業だ。インド系や中国系、中東系企業が多く、日系企業はまだ少ない。医療用品や医薬品の取り扱いにも力を入れている。2023年7月に倉庫をオープンしたが、2025年3月時点で既に倉庫の8割程度が埋まってきている。

質問: 倉庫業について。
答え:強みは日本企業の細かいニーズを満たす高いサービスクオリティ、そして地域に根ざしたネットワーク、の2点がある。倉庫業では一般的にWMS(Warehouse Management Service)という倉庫管理システムが使用されるが、ケニアでは多くの企業がWMSを使いこなせておらず、荷物の管理をマニュアルで行っているため、個数の不一致などが発生している。自社ではWMSを使いこなせていることに加え、専任のスタッフを配置し、トリプルチェックを行うなどして管理を徹底している。また、倉庫の床には、ほこりが発生しにくいエポキシ樹脂加工を施しており、ほこりを気にする医薬品や食品を扱う顧客から好評だ。倉庫について詳しい顧客ほど評価が高い。また、ケニアでは輸入品の品質が保証されていることを示すステッカーを製品1つずつに貼る必要がある。人員コストがかかるため、ステッカー貼りを代行する他社は少ないが、自社ではこの代行も行っている。細やかな提案や徹底した在庫管理を大事にしている。以前他社の倉庫で個数の不一致などを経験した顧客からの評判が特に良く、うわさや口コミで顧客が広がり、倉庫が埋まっていった。アフリカはよく「コネクションの世界」と言われるが、いい方向に働いた。

ケニアの倉庫で、緑のキャップが付いた飲料パックを箱から取り出す様子。 倉庫内でステッカーを張る作業を行う様子(同社提供)

質問: 特に力を入れている分野は。
答え:医療用品や医薬品、医療機器等のヘルスケア物流に力を入れている。ヘルスケア物流はコールドチェーンが必要だが、アフリカではまだ整っていないのが現状だ。そのような状況では、ヘルスケア物流は安全性とクオリティの高いサービスが求められるため参入障壁が高く、付加価値が生まれる。人口増加と経済成長が続くアフリカでは、ヘルスケア分野のニーズも大きくなるため、プレゼンスが今後高まっていくと考えている。基本的には、物流業も価格が低いほど競争力につながるが、医療用品や医薬品の場合は商品単価が高く、商品の品質保持が重要なため、物流リスクを鑑みて、顧客は物流に関してもサービス品質を重視する傾向が大きい。このヘルスケア物流の分野では、アフリカでまだプレーヤーが限られており、先んじて参入していきたいと考えている。業界全体で見ても、ヘルスケア物流はまだ伸び代があるので、ケニアでトップランナーになりたい。 既に倉庫の一部を医薬品専用のエリアにして取り扱いを始めている。棚の色ごとに管理し、通常の荷物よりも多い頻度で棚卸しを行っている。医薬品それぞれの使用期限と個数の管理をしっかり行い、この倉庫から各薬局などへ運送している。

また、ヘルスケア物流の一環として、アフリカトップの医療用品会社、リバイタル(Revital)と戦略的業務提携を結んだ。リバイタルは注射器などの医療用品メーカーで、アフリカではトップの企業だ。これまで、リバイタルは国際機関の援助案件で医療器具をアフリカ各国に供給する際、ドバイや欧州を経由していた。この既存の物流ルートだと非常に非効率なため、物流拠点をアフリカにつくりたいとの考えから、自社との提携に至った。ケニアのモンバサに位置する経済特区の中に倉庫を構える予定で、リバイタルとの提携の下、ヘルスケア物流をさらに強化していきたい。

倉庫内の棚に整理整頓された医薬品がずらりと並んでいる様子。 倉庫の医薬品エリアの一部(ジェトロ撮影)

質問: 国境を越えた物流はどうか。
答え:2024年6月にサブサハラ・アフリカの8カ国に拠点をもつ米系ロジスティクス会社、アリステアグループに25%の出資を行った。アリステアはトラック輸送や倉庫運営、通関などを手掛けている会社で、トラック台数はチャーターも含めると約700台から1,000台を運行している。DRC(コンゴ民主共和国)やザンビアなど、内陸の重要鉱物産地から銅やコバルトなどをタンザニアのダルエスサラーム港や南アフリカのダーバン港まで輸送し、再エネ関連で銅需要の高い中国へ運んでいる。アリステアの強みは、IT技術を用いた物流管理と、安全への工夫が行き届いている点だ。完全ペーパーレスで通関手続きを迅速化しているほか、各トラックの運行情報をGPSで24時間追跡し、顧客にリアルタイムで情報提供している。荷物を狙ったトラック襲撃など治安の問題があるが、高い安全意識と厳しい運転ルールで対策している。トラック5、6台で隊列を組んで輸送するなど、トラックや荷物の安全をしっかり確保する工夫を行っている。国境付近にも事務所を構えており、通関ポイントに専任スタッフを配置するなど、専門的な人材を抱えているのも強みだ。アフリカでは通関手続きなどの面で、国境を越えた物流の壁が高いが、アリステアへの出資・協業によりハードルが下がった。

質問: 東アフリカの地域拠点としてのケニアの優位性は。
答え:モンバサの港がしっかりしている点が大きい。タンザニアのダルエスサラーム港も良い港だが、船舶の混雑がひどい印象で、周囲の土地に空きがないため、拡張は難しいのではないかと考えている。これに対して、モンバサ港は土地に余裕があり、日本政府の支援も入って拡張プロジェクトが動いている。その上、既に標準軌鉄道(SGR)で内陸部とつながっているため、接続性が良い。また、皆が英語を話し、一般的に勤勉であるという強みもある。これらの点で、現時点ではタンザニアよりもケニアの方が東アフリカの地域拠点としての優位性があると考えている。また、国連がケニアに地域拠点を置いていることも、ケニアが東アフリカにおける地域拠点として位置づけられる重要な要因の1つであると認識している。

質問: 課題はあるか。
答え:倉庫を拡張してさらに顧客を呼び込みたいが、現在入居しているビジネスパークやこのエリアには空きがなく、満杯の状態である。こうした背景もあり、モンバサでのプロジェクトや3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業を含む新たなロケーションでの倉庫事業にも注力していきたい。

質問: アフリカビジネスに関心のある日本企業へのメッセージは。
答え:ロジスティクスの面では、しっかり安心してもらえるサービスを提供できると考えている。アフリカ物流ジャパンデスクも設置しているのでお気軽にご相談いただきたい。TICAD9(第9回アフリカ開発会議)にも参加予定なので個別のご相談も日本で承れる。日本企業の皆さんとともにアフリカビジネスを盛り上げていければと思っている。


掲載のお知らせ


    2025年4月23日に、弊社の事業がJETROに掲載されましたのでお知らせいたします。
    商船三井グループのケニアでの倉庫事業とアフリカでのロジ事業について、JETROの「アフリカでのビジネス事例」で特集されました!ぜひご覧ください。
    JETROのページ」を是非ご覧ください。

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