
こちらに暮らしていると、「ロードシェディング」と呼ばれる計画停電は避けて通れない。信号が消え、大きな交差点までもが臨時の四方一時停止のようになる光景は、最初は混乱を想像していたけれど、実際に遭遇すると意外にも整然としている。車は来た順に通過し、人々は慣れた様子で冷静に対応しているのだ。


バッテリーシステムと駐在生活
家庭やオフィスでは、停電への備えがすっかり当たり前になっている。以前は発電機の音があちこちから聞こえていたが、最近は「バッテリー+インバーター」システムが主流だ。停電になると自動的に切り替わるので、とても静かで都市部には向いている。
ただ、短期駐在の身としては、自分で機材を選んで設置して、さらにメンテナンスまでとなると負担が大きい。だから、多くの外国人は最初から設備が整ったアパートやコンドミニアムを選ぶことになる。
電気だけではない。断水も珍しくなく、一軒家に住むなら貯水タンクの設置が必須だ。こうした「インフラ対応コスト」がじわじわと家計を圧迫し、新車の購入など大きな出費を控える家庭も増えている。
SasolのMRGプロジェクト:ガス・クリフに向けた延命策
モザンビークのパンデ/テマネ油ガス田から南アへの天然ガス供給は、2027〜2028年ごろに尽きると予測されている。議会も2028年に向けて供給が減少すると公表しており、「ガス崖(Gas Cliff)」は現実味を帯びた課題になっている。
そこでSasolが打ち出したのが、石炭由来のメタンリッチガス(MRG)を産業向けに供給する計画だ。2028年6月以降も最大24か月間ガスを延命し、2030年ごろまでの“つなぎ”とする。この措置は完全な解決ではないが、時間を稼ぐには有効だ。
南アのFSRU導入の動き
長期的には、LNG輸入とFSRU(浮体式貯蔵再ガス化設備)の整備が模索されている。2025年2月には、国営港湾公社(TNPA)が民間のZET社と25年間の契約を結び、リチャーズベイ港で初のLNG受入ターミナルの建設を始動させた。過去に頓挫した計画の仕切り直しだ。
さらに隣国モザンビークのマトーラ港では、Beluluane Gas Company(BGC) がFSRUとパイプラインの開発権を獲得。南ア側のガス幹線会社ROMPCOも「逆流(Reverse Flow)」の可能性を検討している。マトーラで再ガス化したLNGを既存パイプラインで南アに送り返す構想で、実現すればエネルギー安全保障の新たな生命線になり得る。

米国産LNGと政治的圧力
さらにもう一つ、米国からのLNG輸入交渉も進んでいる。報道によれば、年間7,500万〜1億立方メートルを10年間調達する案が提示されており、通商交渉や関税問題とも絡んでいるらしい。もしまとまれば、リチャーズベイやマトーラでのFSRUプロジェクトを後押しし、関連インフラ投資の弾みになるだろう。
おわりに
停電や断水に備える日常は生活コストを確実に押し上げている。一方で国全体では、「ガス・クリフ」を前にして、SasolのMRGプロジェクト、FSRU整備、米国産LNGの可能性といった複数の橋渡し策が同時に進行している。
ここに暮らしていると、日々の生活と国のエネルギー政策が地続きであることを強く実感する。そして、こうした代替エネルギー確保の動きは、私たち商船三井としても関心を持ち、将来的に関わっていきたい分野だと感じている。