環境・持続可能性戦略とCSRの実践:実践を通じた学び
MOL(Mauritius)Ltdの最初のブログ記事 では、インド洋の星と鍵と称されるモーリシャスに、MOLの船が100年以上にわたり寄港してきた歴史を紹介しました。
2020年7月26日、モーリシャスの美しい南東海岸沖で、全長300mのケープサイズばら積み船MV “Wakashio“が座礁・破損したことがきっかけで、MOLにとってモーリシャスは、主要な海上交通ルート上の単なる寄港地以上の存在となりました。
MV “Wakashio”は、別の日本の海運会社が所有・運航・技術管理しており、MOLとの傭船契約のもと、鉄鉱石積載のためブラジルへ向かっている途中でした。

2025年10月初旬に公表されたモーリシャスの裁判所による公式調査報告では、この事故の主因は「人的ミス」であると確認されました。これはモーリシャス史上最悪の海洋事故です。
MOLは事故そのものに直接的な責任や法的義務はありませんが、グローバルな海運企業として、また社会的責任を重視する企業として、事故対応や環境回復、漁業・沿岸地域の支援に積極的に関与することを経営陣が決断しました。この強いCSR意識は、当時のCEOであり現会長の池田潤一郎氏によって体現され、後にモーリシャス政府より日本における名誉領事にも任命されました。
その後、MOL社員による支援チームが交代でモーリシャスに派遣され、集中的な清掃活動が行われました。研究機関やNGOへの直接的な資金提供も行われ、被災地域への即時支援が実施されました。油流出対応、サンゴ礁、マングローブ、漁業、沿岸地域に関する国際・地域の専門家が動員され、2020年9月には環境回復と地域支援のために8億円(約700万米ドル)の資金提供をMOLが約束しました。これを受けて、2020年10月にMOL(Mauritius)Ltdが設立され、現地での調整を担うこととなりました。
MOLチャリタブル・トラスト(MCT)およびMOLモーリシャス国際基金(MMIF)の設立
MOLによる8億円の資金提供の決定を受けて、2つの実施基金が創設されました。それが、MOLチャリタブル・トラスト(MCT)とMOLモーリシャス国際基金(MMIF)です。これらの基金は、資金支援の受給者に対して公正かつ透明なプロセスで助成を行うため、独立した管理体制を持つ組織構造が採用されました。
モーリシャスにおけるMCTの設立
モーリシャスでは、5年間で3億円を投入する計画のもと、MOLチャリタブル・トラスト(MCT) が設立されました。運営は7名の「Enforcers(執行委員)」による委員会が担っており、そのうち過半数はモーリシャス在住者で、3名はMOLとは独立した立場の委員です。MCTは、社会的・環境的な緊急ニーズに対応するNGOや地域密着型プロジェクトを対象としており、1プロジェクトあたり年間最大100万モーリシャス・ルピーの助成金を提供しています。
日本におけるMMIFの設立
日本では、7年間で5億円を投入する計画のもと、公益信託 商船三井 モーリシャス自然環境回復保全国際協力基金(MMIF)が設立されました。運営は7名の「Enforcers(執行委員)」による委員会が担っており、そのうち過半数はモーリシャス在住者で、3名はMOLとは独立した立場の委員です。MCTは、社会的・環境的な緊急ニーズに対応するNGOや地域密着型プロジェクトを対象としており、1プロジェクトあたり年間最大100万モーリシャス・ルピーの助成金を提供しています。

活動と成果
2021年の活動開始以来、MCTとMMIFはモーリシャス全土で70以上のNGOやプロジェクトを支援し、環境保全、持続可能性、地域開発に貢献。数千人の受益者に影響を与えています。
特に最近の3つのプロジェクトは、持続可能で具体的な成果を示しています:
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若者の海洋分野でのエンパワーメント:Kolektif Rivier Nwar(KRN)
2025年5月、KRN(Kolektif Rivier Nwar)は、正式な訓練や雇用機会へのアクセスが限られている脆弱な沿岸地域の若者たちと共に活動する地元NGOであり、プレジャーボート「スキッパー」ライセンスの授与式を開催しました。MCTおよび他の共同資金提供者の支援を受けて、KRNは航海術、海事法規、安全手順、気象の読み方、海上での緊急対応、応急処置などに関する理論・実技のスキッパーライセンス訓練を提供しています。
これまでに60名以上の若いモーリシャス人が訓練を修了し、正式なボートスキッパーライセンスを取得しました。これにより、地元の観光業や海洋分野での雇用機会や賃金の向上が期待されます。すでに複数の卒業生が地元の造船所やボート運航会社に就職しています。 -
モーリシャス初の地球・海洋ラボ:マスカレン大学
2025年9月、マスカレン大学はMCTの資金支援を受けて設立された「地球・海洋ラボ」を開設しました。このラボでは、モーリシャスの海草藻場の分布をマッピングし、炭素貯蔵の可能性を評価します。海草藻場は炭素吸収源として機能し、海洋生物の生息地であり、沿岸を自然に保護する役割も果たします。
海草藻場のマッピングにより、モーリシャスにおける科学的な基準が確立され、今後の保全・回復・政策立案の指針となります。この科学的基盤は、将来的にモーリシャスの海草藻場がブルーカーボンクレジットを活用するための重要なステップでもあります。 -
循環型経済モデル:The Good Shop
2025年9月、The Good Shopは設立7周年を記念するイベントを開催しました。同団体は、2022年からMMIF(MOLモーリシャス国際基金)の支援を受けている社会的企業です。
The Good Shopは、「教育・雇用・環境」という三本柱のミッションを掲げ、寄付された物品の回収・修理・再販売を通じて活動しています。回収された物品は店舗で再販売されるか、脆弱な地域で活動するNGOに寄付され、埋立地への廃棄を防いでいます。
店舗での再販売によって得られたすべての利益は、雇用創出や教育奨学金の提供に再投資されます。
MMIFによる5年間の資金支援プログラムにより、The Good Shopは新たな店舗の開設や物流車両の取得が可能となり、活動の大幅な拡大を実現しました。
7周年記念イベントのハイライトは、The Good ShopがLighthouse Schoolに対してMUR 889,000(モーリシャス・ルピー)を寄付し、脆弱な家庭の子どもたちの教育奨学金に充てたことです。
この奨学金の資金は、The Good Shopの再販売事業によって生み出されたものですが、MMIFの支援による事業拡大が収益の増加を促し、「教育・雇用・環境」という三本柱のミッションの実現可能性を強化しました。
今後の展望:CFP5とその先へ
今後に向けて、2026年に実施されるプロジェクトに対するMCTの第5回提案募集(CFP5)は、2025年9月29日に締め切られました。モーリシャス全土のNGOから70件以上の応募があり、モーリシャスの市民社会の活力と、MOLの環境・持続可能性への取り組みに対する認知度の高さが示されました。
今後、MOLモーリシャスのスタッフは、第三者によるデューデリジェンスパートナーの支援を受けながら、提案の審査を開始し、最終的には執行委員会によって選定される予定です。プロジェクトの採択は年末までに発表される見込みです。
さらに、MCTの5年間の資金提供が最終年を迎えるにあたり、これまでの経験を振り返り、今後モーリシャスのNGOをどのように支援し続けるかを検討しています。同時に、モーリシャスで得た知見を、MOLのグローバルな持続可能性マネジメントおよび企業の社会的責任活動に統合していく方針です。
持続可能性はMOLグループの経営戦略の中核であり、重点分野には「海洋環境」(海洋生態系の保護と海洋汚染の防止)、「次世代人材育成」(海事教育の機会提供など)、「地域課題への対応」(MOLの事業に関連する地域課題への対応や災害・紛争被災地の支援)が含まれます。
MCTとMMIFは、MOLによるモーリシャス支援の象徴であると同時に、環境的・社会的責任を果たす海運企業としてのMOLのビジョンを体現するものです。
References | Notes
- • MOL for Mauritius ドキュメンタリー映像:
https://www.mol.co.jp/en/formauritius/about/?id=ancDocumentary - MCTプロジェクト情報・報告書:
https://www.mol.co.jp/en/formauritius/funding/ - MMIFプロジェクト情報・報告書:
https://www.mol-mauritius-fund.jp/en/projects/ - MCTインパクト動画(現場の声):
https://sites.google.com/view/in-r/home?authuser=0